ドームふじだより No. 28
−ケーシングパイプ−


 写真1は掘削場の中央にケーシングパイプが立っているところです。今回はケーシングパイプとわれわれの越冬中の最大の仕事である「第2期ドームふじ深層コア掘削計画」の準備について説明しましょう。ドームふじ観測拠点は標高3810mの所にありますが、地面の高さが約800mで、その上の約3000mは降り積もった雪が固まって氷になったものです。雪はその時の空気を含んだまま氷になっているので、底の方には約80万年前の空気が閉じ込められていると考えられています。2006年の夏までに、この氷を直径10cmの筒状(コア)に3000m分掘り出そうというのがこの計画です。掘り出してから分析をすれば80万年前までの地球の環境がわかるはずなのです。1995年から1996年までの第1期で2503m(約32万年前)のコアは掘り出されましたが、そこでドリルが引っ掛かってしまいました。今回は位置をずらしてもう一度3000mに挑戦するわけです。
 ドリルは1回に約4mのコアを掘り出せますので、これを繰り返すわけです。穴は深くなると周囲から押されて狭くなってきてしまいますから、これを防ぐために液封液というものを入れて掘削します。ところが、雪面から100m位の深さまではまだ雪が完全に氷に変わっていないので、液封液が漏れてしまいます。そこで、この約100m分はケーシングパイプという筒を入れて、周りに漏れるのを防ぐわけです。
 写真2は新掘削場の屋根の部分です。ドームふじ観測拠点の居住区画は雪面上に建てたものが雪に埋まってしまったのですが、掘削場は始めから雪を掘ってその上に屋根をかぶせた構造になっています。浅層用の小型のドリルで始めに直径約13cmの穴を100mまで開け、その穴をリーマーと呼ばれる太いドリルで少しずつ拡げます。写真3は一番太い直径約26cmのリーマーです。中央の黒いところにモーターが入っています。下のドリル部分が回転したときに本体が逆回転しないように、上の3つの羽のようなものが穴の壁に食い込んでこれを防ぎます。十分に穴が拡がったところで、写真4のように1本約3mのケーシングパイプをつなぎながら約100m挿入しました。千里の道も一歩からといいますが、今まさに3000mへの第一歩を踏み出したわけです。(写真撮影 亀田貴雄観測主任)


写真1 ケーシングパイプ


写真2 掘削場屋根


写真3 リーマーでの孔の拡幅


写真4 ケーシングパイプ設置中

ドームふじだより No. 29
−ドームふじ大学−


 極夜が始まったここドームふじでは、長い夜を利用して「南極ドームふじ大学」を開校しました。隊員間の相互理解を深める目的で始まった昭和基地の「南極大学」や、しらせ乗船中の「しらせ大学」には長い伝統があります。週に1回、隊員が交代で教授を務めます。講義内容は自由で、自分の専門分野の話でもいいし、趣味、あるいはこの時のために新たに調べたことでも可能です。様々な分野の専門家が難しい話をわかりやすく講義してくれるので、時間が経つのを忘れるほどとても楽しいものです。
 もともと娯楽を兼ねた大学ですが、われらドーム越冬隊員は雰囲気を盛り上げることが大好きなので、教授陣は講義内容はもとより、服装にも凝っています。写真1は学長の亀田貴雄観測主任とこの日の教授、栗崎高士機械隊員です。亀田学長はこの日のためにワイシャツとネクタイを持って来ていました。栗崎教授は古典的な教授のイメージの格好をして、「見れば納得!ディーゼルエンジンの話」という講義をしてくれました。写真2の教授は中野啓隊員(宙空)で、「紙芝居:星座の話」を寒い冬を忘れさせてくれるアロハシャツ姿で熱弁してくれました。


写真1 栗崎教授(左)と亀田学長(右)


写真2 中野教授による「星のお話」

ドームふじだより No. 30
−赤いオーロラ−


 5月29日の夜、オーロラが大ブレークしました。オーロラは太陽風という太陽から発せられるプラズマが地球の磁場に捉えられて起こる現象なので、太陽活動が活発になるとオーロラも活発になります。普通の日のオーロラは(写真1)のようにうす緑色のカーテンがゆっくり揺らめく程度で、活発になるとそのカーテンの下の縁が赤く色づき、動きも早くなります。この日は(写真2)のように頭の上(天頂部)から降りそそぐようなコロナ状のオーロラがほぼ全天を占めていました。これだけでもなかなか見ることのできないすごく活発な状態なのですが、その後さらに活発になって(写真3)のように次第に赤い部分が増えてきて激しく揺らめくようになり、ついに(写真4)のように全体が赤いオーロラとなりました。赤いオーロラが発生すること自体とても珍しいことだそうですが、さらにデジタルカメラでこれだけきれいに撮影されることは極めて珍しいことだと思います。(写真撮影 中野啓、栗崎高士両隊員)


写真1 揺らめく緑のオーロラ


写真2 降り注ぐコロナ状オーロラ


写真3 下部が赤みがかったオーロラ


写真4 全体が赤いオーロラ